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スプリット・アトラクション・モデル(SAM)とは何ですか? メリットとデメリットとは?

スプリット・アトラクション・モデルとは?
Q
スプリット・アトラクション・モデル(Split Attraction Model; SAM)とは何ですか?
A

人が経験する魅力をいくつかに分ける考え方のことです。主に性的魅力と恋愛的魅力に分けることが多く、その場合は性的指向と恋愛的指向が存在することになります。

魅力(attraction)とは?

せんぱい
せんぱい

今回は「スプリット・アトラクション・モデル」について説明しようと思うよ。

こうはい
こうはい

「アロマンティック」のときにも話題にでていたね。カタカナばかりでイマイチわからない専門用語だったのだけど…。

せんぱい
せんぱい

スプリット・アトラクション・モデルは英語で「Split Attraction Model」と表記し、頭文字をとって「SAM」と略されることもあるよ。

こうはい
こうはい

たしか…魅力を分けて考えるとかなんとか…。

せんぱい
せんぱい

うん。まず「魅力」について説明しよう。性的指向などの話題ではこの「魅力」という言葉がよく使われる。英語では「attraction」。つまり「惹かれること」を意味するね。

こうはい
こうはい

好きになる…ってこと?

せんぱい
せんぱい

まあ、そうとも言えるね。私たちは「人に惹かれる」ことがある。言い換えると「魅力を感じる」ことがある。そして異性に魅力を感じる人を「異性愛(ヘテロセクシュアル)」、同性に魅力を感じる人を「同性愛(ゲイ・レズビアン)」、異性にも同性にも魅力を感じる人を「両性愛or全性愛(バイセクシュアル・パンセクシュアル)」、誰にも魅力を感じない人を「無性愛(アセクシュアル)」という性的指向として捉えてきた。

こうはい
こうはい

それはわかるよ。でもさ、魅力って結局なんなの? だいたい魅力にもいろいろあるよね。キスしたと思う魅力か、性行為をしたいと思う魅力か、単に一緒にいたいと思う魅力か、そばで見ているだけでいいと思う魅力か…。見た目に魅力を感じているのか、性格なのか…。考え出すとキリがないよ…。

せんぱい
せんぱい

そう、そこなんだね。魅力って捉えどころが難しい。千差万別だからね。ひとことで「魅力」と表現してもなかなか認識を共有しづらいよね。

こうはい
こうはい

うん。「私は性的関係になりたいかという魅力の話をしていた」「え? 私は一緒にいて憧れるという魅力の話をしていただけなんだけど?」…みたいに食い違いとか起きるよね。

性的魅力と恋愛的魅力に分ける

せんぱい
せんぱい

そこでスプリット・アトラクション・モデルが登場したわけです。これはその漠然としていた「魅力」をいくつかに分けるという考え方のことだよ。

こうはい
こうはい

魅力をさらに細かく分けるの?

せんぱい
せんぱい

そう。例えば「性的魅力」「恋愛的魅力」

こうはい
こうはい

その2つだけ?

せんぱい
せんぱい

いや、確かにスプリット・アトラクション・モデルについて説明するときは、この性的魅力と恋愛的魅力が取り上げられることは多い。でも他にももっと魅力を分けてもいいんだよ。

こうはい
こうはい

他にも何があるの?

せんぱい
せんぱい

例を挙げると、美的魅力、感覚的魅力、プラトニックな魅力…。これ以外にもある。個別については他のページでも解説したので、それを参考にしてね。

こうはい
こうはい

魅力って複雑だな~。

せんぱい
せんぱい

もちろん魅力をどう分けるかはその人しだいだけどね。でもこのスプリット・アトラクション・モデルによって「魅力」という概念をもう少し細かく解体しながら扱えるようになったわけだね。

誕生の理由

こうはい
こうはい

スプリット・アトラクション・モデルというのはいつ頃から作れられた用語なの?

せんぱい
せんぱい

2000年代の始め頃にアセクシュアルのコミュニティで考えられるようになったんだよ。そして00年代の後半にはアセクシュアルの界隈で定着するようになったんだ。

こうはい
こうはい

なんでアセクシュアルのコミュニティから始まったの?

せんぱい
せんぱい

それはね、アセクシュアルの人の中には「他者に性的に惹かれはしないけど、恋愛的に惹かれはする」という当事者もいたんだよね。また「他者に性的に惹かれるけど、恋愛的には惹かれない」という当事者もいた。でもそういう人たちを上手く表現する概念が無くて困っていた。

こうはい
こうはい

そっか、「アセクシュアル」というだけだと、他者に魅力を感じないということになるから、性的にも恋愛的にも惹かれはしないと誤解してしまうことになりかねないね。

せんぱい
せんぱい

そう。ということで、性的魅力と恋愛的魅力を分けて、性的指向恋愛的指向をそれぞれ位置づけて考えようということになった。そこで「アセクシュアル」「アロマンティック」という言葉の分け方が生まれたわけだね。

こうはい
こうはい

スプリット・アトラクション・モデルを適用した場合の「アセクシュアル」の意味は「他者に性的魅力を感じない」になるわけだね。恋愛的魅力は別として。

せんぱい
せんぱい

そのとおり。そして「アロマンティック」は「他者に恋愛的魅力を感じない」ということになるし、性的魅力も恋愛的魅力も感じないなら「アセクシュアル・アロマンティック」と両方併記すればいい、と。

こうはい
こうはい

なるほどね。

せんぱい
せんぱい

このスプリット・アトラクション・モデルは他の性的指向にも応用できる。例えば、異性愛はヘテロセクシュアルとヘテロロマンティックに分けたり、同性愛はホモセクシュアルとホモロマンティックに分けたり、両性愛はバイセクシュアルとバイロマンティックに分けたりね。

こうはい
こうはい

ううんと…つまり…「ヘテロセクシュアル・バイロマンティック」といった場合、異性に性的に惹かれて同性には性的に惹かれないけど、異性にも同性にも恋愛的には惹かれる…ってことになるのかな?

せんぱい
せんぱい

そうなるね。組み合わせが一気に増えるね。

歴史と現状

こうはい
こうはい

じゃあ、性的魅力と恋愛的魅力に分けるのは、このスプリット・アトラクション・モデルが誕生した2000年代からなんだね。

せんぱい
せんぱい

いや、実はもっと前からそういう分け方はあったんだよ。

こうはい
こうはい

あれ、そうなの?

せんぱい
せんぱい

1870年代あたりに、性科学者でゲイ権利運動の先駆者とされる「カール・ハインリッヒ・ウルリッヒス」という人が「性愛」と「恋愛」を分ける考えを提唱していたよ。

こうはい
こうはい

そんな100年以上前から?

せんぱい
せんぱい

他にも1979年に心理学者の「ドロシー・テノフ」がロマンティックな魅力からくる精神状態を「limerent」と表現し、その状態がないことを「non-limerent」と位置付けて、少し性愛と分けて考えてもいたよ。

こうはい
こうはい

ふ~ん、じゃあ考え方自体は珍しくないんだね。

せんぱい
せんぱい

あくまでアセクシュアルのコミュニティで広く定着した「魅力を分ける」という考え方に「スプリット・アトラクション・モデル」という名前がつけられたというだけだね。

こうはい
こうはい

今はスプリット・アトラクション・モデルは定着したの?

せんぱい
せんぱい

少なくともアセクシュアル・アロマンティックのコミュニティではよく使われているね。他の性的指向のコミュニティだと、そこまで目立つ感じではないかな。

こうはい
こうはい

ふと疑問に思うんだけど、性的指向と恋愛的指向を分けるなら、分けないで性的な魅力も恋愛的魅力もひっくるめて考えたいとき、どういう表現をすればいいの?

せんぱい
せんぱい

ヨーロッパ最大級の性的マイノリティ団体である「Stonewall」では、性的指向(Sexual Orientation)と恋愛的指向(Romantic Orientation)に対して、性的魅力も恋愛的魅力も合わせる包括的な用語として「Orientation」を用いる…とウェブサイトで説明しているけど…。あまり現状では業界で統一的な言い回しはないと思う。

デメリットもある?

せんぱい
せんぱい

このスプリット・アトラクション・モデルのメリットは、これまで可視化しづらかった人を表現できるようになったということだね。つまり包括性が上がったことになる。

こうはい
こうはい

うんうん。とくにアセクシュアルやアロマンティックの人には大助かりになるよね。

せんぱい
せんぱい

一方でこのスプリット・アトラクション・モデルにはデメリットもなくはない。マイナス面を指摘する意見もあるよ。

こうはい
こうはい

え? そうなの?

せんぱい
せんぱい

欠点として挙げられやすいのは、性的魅力と恋愛的魅力を必要以上に強調してしまうということだね。

こうはい
こうはい

どういうこと?

せんぱい
せんぱい

例えば、スプリット・アトラクション・モデルを前提にすると「~セクシュアル」というラベルは恋愛抜きで性的関心が強烈に浮き出た用語になってしまう。これだと性的少数者のコミュニティが過度に性的に見られるだけだという批判もある。

こうはい
こうはい

まあ、そうか…。性的関係ありきに見えてしまうかもね。

せんぱい
せんぱい

また、恋愛的魅力を区別しなきゃいけないことにストレスを感じる人もいる。

こうはい
こうはい

ああ、そういう問題もあるのか…。

せんぱい
せんぱい

要するに、性的魅力と恋愛的魅力に境界線を作って分けずに単に漠然と曖昧のままの方が都合がよいという人も一定数いるんだよね。

こうはい
こうはい

う~ん…じゃあ、スプリット・アトラクション・モデルはやめたほうがいいの?

せんぱい
せんぱい

いや、そういうことじゃない。そもそもスプリット・アトラクション・モデルは従うべきルールや基準ではないので、全員がこのとおりにしなくていい。このスプリット・アトラクション・モデルはあくまで道具だから。適用するかはその人しだい、個人の選択だよ。

こうはい
こうはい

スプリット・アトラクション・モデルにメリットがあるなと思った人は使えばいいし、メリットは無いなと思ったら使わなければいいというだけのこと?

せんぱい
せんぱい

そうだね。大切なのは、スプリット・アトラクション・モデルを使っている人を否定したり、はたまたモデルを使いたくないと考えている人を否定したり、そういう片方の全否定をしないことだと思う。これはいろんなところで言っているけど、互いを尊重しよう。

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編集部コメント

当サイトでもスプリット・アトラクション・モデルを採用しながら解説をしていますが、このスプリット・アトラクション・モデルを強要するものではありません。モデルを用いるかどうかは個人の選択です。多くの当事者は自分を説明するのに「言葉」を必要としています。そのしっくりくる言葉に出会うまでの試行錯誤は人それぞれです。他者の葛藤を重ねた試行錯誤を否定したり、評価する権利は誰にもありません。

メディアでアセクシュアルを取り上げる際は、スプリット・アトラクション・モデルを前提にして「アロマンティック」を合わせて紹介する方が無難だと思います。日本ではスプリット・アトラクション・モデルが定着する前に「ノンセクシュアル」という独自の言葉も普及したので、それも合わせて紹介するとなお良いでしょう。

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