アセクシュアル（アセクシャル）の人は他人に触れられないのですか？ 接触恐怖症ですか？

確かにアセクシュアルの中には、手をつないだり、ハグしたりといった、「他人に触れる行為」が総じて嫌だという人は珍しくないと思う。

でもちょっと待ってほしい。アセクシュアルという性的指向と「他人に触れるのが嫌だ」ということは必ずしも関係があるとは言えないんだ。

まずアセクシュアルはあくまで他者に性的に惹かれないという性的指向なので、他者の肌などに触れられるかどうかは関係ない。

うん。でもアセクシュアルの人の中には他者に触れるのは別に問題ないという人もいるし、逆にアセクシュアルではない人の中にも他者に触れられるのが嫌だという人もいるからね。

これはいわゆる「疑似相関」というやつだね。

疑似相関というのは、2つの事象に因果関係がないにもかかわらず、あたかも関係があるように見えることを言うよ。世の中には疑似相関が溢れているんだ。

例をひとつ挙げると「年収が高い人ほど血圧が高い」という話がある。でもこれは一般的に年齢が高くなるほどに年収が高くなるし、年齢が高い人ほど血圧も高くなる。だからそれぞれが年齢と関係があるだけで、年収と血圧に直接の因果関係があるわけじゃない。

アセクシュアルと「他者に触れられるのが嫌」というのも一旦切り分けて考えてみよう。

「他者に触れられるのが嫌」という理由としては、実はいろいろ原因が考えられるよ。

トラウマなどの心理的な要因だね。家庭・職場・友人・恋人・他人…あらゆる人間関係や場所において何かトラウマを生じさせるような出来事が引き金となり、他者に自分から触れたり、自分が他者に触られるのがダメになってしまうことがある。

こうした心理的なトラウマによって起きる「触られるのがダメになってしまう」という状況は、医学的に「接触恐怖症」と診断されることもあるよ。

接触恐怖症の人は、ときにはその接触によって、動悸・過呼吸・吐き気・失神・パニック障害などの症状が併発することもある。広場恐怖症へと連鎖して発症することもあるね。

「感覚過敏」も考えられるよ。これは周囲の音や匂い、味覚、触覚など外部からの刺激が過剰に感じられて激しい苦痛を伴って不快に感じられる状態のことを言うよ。症状は人それぞれ違うんだ。とくに握手など他人に触られるのが嫌という場合は「触覚過敏」と呼ぶ。

これも不安・ストレスなどの心因性もありうるのだけど、必ずしもそうではなくて、脳の機能や感覚器に異常があるケース、認知症、さらに別の病気の予兆と思われる事例…いろいろ指摘されている。まだ科学的によくわかっていない部分も大きいから注意が必要だね。

「HSP」も感覚過敏とほぼ同じ内容だね。最近日本でも流行った用語だけど、これは心理学者のエレイン・アーロンが提唱した概念で、医学的な診断名ではないので使用には注意してね。

あと、発達障害の自閉スペクトラム症の特性としても感覚過敏はあって、ADHDなどの人の中にも肩や背中をトンと叩く程度でも他人に触れられるのが極度に嫌ということがよくあります。

そう、だから自分や誰かが「他人に触られるのが嫌」だったとしても、それが「アセクシュアル」が原因だと思い込まない方がいいし、そういう先入観を助長しない方がいいと思うよ。

というより、その人の「他人に触られるのが嫌」という状況がアセクシュアルと関連があると思わせてしまうことで、本当の原因と向き合う機会を失わせるかもしれないしね。結構これは深刻な問題だ。

うん、性的指向では片付けられないけど、間接的な理由は考えられる。例えば、キスやハグなど性的に惹かれていると紐づけられやすい行為は避けたがるとか。また、アセクシュアルゆえに差別や偏見に日常的に晒されて鬱病やトラウマを生じ、その結果、他人に触られるのがまるでダメになってしまうことだってある。その場合はメンタルヘルスのケアが必要だよね。

これはハッキリ言っておかないといけないけど、どういう理由であっても他人に触れないからといって自分を卑下したり、劣等感を感じる必要はないからね。あなたが間違っているわけではないよ。

それは状況によりけりだけど、病院で診察を受けるのも選択肢のひとつだね。心理的なトラウマを抱えているなら、カウンセリングやセラピーを受けるのも良いと思う。もちろん他者に性的に惹かれないというアセクシュアルの性的指向かもと思ったら、アセクシュアルのコミュニティが居場所になると思うよ。

そうだね。コミュニケーションのマナーとしてそもそも「他人にむやみにふれない」というのは大事だと思う。相手のことをよく知らないならなおさらだよ。アセクシュアルかどうかに限らずね。セクシャルハラスメントにだってなりうるのだから。ちゃんと頭の片隅に入れておこうね。