アセクシュアル・アロマンティックは病気ですか？ 精神疾患ですか？

それは大変だったね。

良かった。そういえば私の父は糖尿病で何かと食事制限もしているけど、最近は健康も不安定になってきていたなぁ…。

人によってはとても苦しいからね。そういうときは素直に病院に頼るのも大事だよね。私の友人の親は以前に鬱（うつ）になって一時的に会社を辞めていたけど、今は回復しているよ。

うん。ところでどうしてそれらは病気だと思ったのだろうか。

そう、病気って世間一般的にはそういうものだよね。

他者に性的に惹かれない「アセクシュアル」や、他者に恋愛的に惹かれない「アロマンティック」の人は病気であると誤解されることもあるんだよね。

当事者本人が「こんな私って病気じゃないだろうか」と悩んだり、周りの人から「それって病気じゃないの？」と指摘されることもあるんだ。

そのとおり。これはハッキリ言っておこう。アセクシュアルやアロマンティックは病気ではないよ。

他者に性的に惹かれないとか、恋愛感情がないと他人に打ち明けたとき、よくある反応は「まだ出会いがないだけだよ」と言われてしまうことだ。でも平然と「他者に性的に惹かれない・恋愛しない」という指向を示したとき、一部の人はそういう人間を「病気」とみなすことがある。

人は自分視点でしか物事を見ていないから、当たり前に他者に性的に惹かれたり、恋愛をしてきた人にしてみれば「他者に性的に惹かれない・恋愛しない」ことは「病気」だと思うんだろうね。逆に当事者にとってもあまりにも世の中が他者に性的に惹かれたり、恋愛をすることを当然であるとするかのように扱っているから、自分が「病気」ではないのかと不安になってしまう。

そもそも病気というのは医学で知見が蓄積されており、どういう症状がどんな病名なのか整理されている。例えば、アメリカ精神医学会は「精神障害の診断と統計マニュアル（DSM）」というものを策定しており、これに基づいて医者は診断を下すことができる。なんでもかんでも好き勝手に病気扱いできるわけじゃない。

アセクシュアルやアロマンティックがそういう診断マニュアルで「病気」として定められている事実はない。だから明快にアセクシュアルやアロマンティックは病気ではないと言えるよ。

アセクシュアルやアロマンティックは病気の名称ではなく、性的指向であり、恋愛的指向だ。

全くそのとおり。アセクシュアルやアロマンティックでも病気じゃないのだからそれだけでは病院に通う理由はない。

アセクシュアルやアロマンティックは自分の通常の状態だし、それ自体は健康を全く脅かしていないのだから、病気なわけがないよね。

でもすんなりいかないかもしれない。

残念だけどアセクシュアルやアロマンティックという性的指向や恋愛的指向は、現状、広く社会に認知されているとは言えない。だからもしかしたら病院の医者や保健室の先生さえもわかっていないかもしれない。そして誤って病気と断定してしまう可能性もある。

アセクシュアルやアロマンティックという概念を普及啓発している人もたくさんいるけど、まだまだじゅうぶんな理解には程遠い。アセクシュアルやアロマンティックは病気かどうかをインターネットやSNSで調べて誤った情報にアクセスしてしまうこともある。

できればアセクシュアルやアロマンティックに対して知識がある、理想的なのは専門的知見を持っている人に相談したいところだね。

もしくは専門的なウェブサイトや書籍を参考にするとか。とにかくアセクシュアルやアロマンティックは病気であるというのは誤りだ。これだけは明確に言い切れる。

アセクシュアルやアロマンティックは病気であるというふうに思われやすいけど、それは典型的な偏見や差別だ。治す必要もない。

もし「アセクシュアルやアロマンティックは病気だ」と言われたら、もしくはそう言っている人を見かけたら「それは違う」と訂正しよう。もし面と向かって正すのが怖いなら無理をせず、正しい情報源を提示するのもいいだろう。「この本を読んでみたら？」とか、「このウェブサイトがいいよ」とか、そういうさりげない誘導で相手の偏見を改善することができるかもしれない。

病院や保健室で働いている人はぜひアセクシュアルやアロマンティックの知識を深めてほしい。そしてアセクシュアルやアロマンティックに対して理解があることを対外的に示してくれると、当事者は病院や保健室に行きやすくなると思うよ。例えば部屋の前や建物の入り口にシンボルのフラッグを掲げるとかね。

映像作品や漫画などでもアセクシュアルやアロマンティックをまるで病的のように、例えば難病や障がい者のように描くのはやめよう。偏見を助長するだけだ。

もちろんアセクシュアルやアロマンティックの人でもインフルエンザにかかったり、精神疾患になったり、そういう病気になることは当然あるので、そんなときは躊躇せずに病院に行って診察を受けてね。それに、病気や不健康であることが「悪い」というわけではない。最近はとくにそういう認識も広まっている。病気であろうとなかろうと、自分を後ろめたく考えることはないからね。