2021年にイングランドとウェールズの国民を対象に行われた国勢調査の結果が2023年1月に公表され、ジェンダーやセクシュアリティに関する広範な統計が明らかにされました。その結果、イングランドとウェールズの人口のうち、約0.06%がアセクシュアル(アセクシャル)であると示されました。
イングランドとウェールズの国勢調査の結果
イギリス国内のさまざまな統計をまとめている国家統計局(Office for National Statistics)はイングランドとウェールズの2021年の国勢調査データを発表しました。国勢調査は10年ごとに行われますが、今回は初めてセクシュアリティとジェンダーについて尋ねる項目が設けられ、注目を集めました。
その結果はこのようになりました。
性的指向については、16歳以上を対象にしています。結果、4490万人が回答。89.4% が異性愛者であると答え、3.2%がマイノリティな性的指向であると答えました。残りの7.5%は質問に答えませんでした。
詳細を見てみると、同性愛者(ゲイ・レズビアン)と答えたのは1.54%、両性愛者(バイセクシュアル)と答えたのは1.28%、全性愛者(パンセクシュアル)と答えたのは0.23%、無性愛者(アセクシュアル)と答えたのは0.06%、クィアと答えたのは0.03%でした。
イングランドとウェールズでは割合に大きな違いはなく、セクシュアル・マイノリティの人口は地域差はそれほどでないことも明らかになっています。
公式のレポートは以下の国家統計局のウェブサイトから確認できます。
過小評価であるとの指摘も…その理由は?
無性愛者(アセクシュアル)と答えたのは0.06%というのは、人口で単純に換算すると26940人の数となります。これだけ聞くと、アセクシュアルの人口は多いように思えます。
しかし、この今回のイングランドとウェールズの国勢調査の結果は、アセクシュアルを過小評価しているとの指摘もあります。
例えば、市場調査会社イプソス(Ipsos)が2022年に発表したレポートによると、イギリスのアセクシュアルの人口は2%であると統計を明らかにしています。それと比べると今回のイングランドとウェールズの国勢調査のアセクシュアルの割合は大幅に低いことがわかります。
なぜこのような差が生じてしまったのでしょうか。
考えられる理由のひとつとして、質問の選択肢の問題があります。イングランドとウェールズの国勢調査では性的指向については「異性愛者」「同性愛者」「両性愛者」「その他」の回答しか用意していませんでした。アセクシュアルだと答えたのは「その他」を選択し、自分でアセクシュアルであると記入した人だけです。
また、この性的指向の質問ではひとつしか回答できません。例を挙げるならば、バイセクシュアルでグレーロマンティックの人がいた場合、「両性愛者」とだけ答えるケースが考えられます(その場合はアセクシュアル・スペクトラムを回答として認識できません)。
さらにこのような国勢調査は家族の誰かが代表して記入していることもあります。そのため、カミングアウトしていないようなアセクシュアル当事者は本当の性的指向を回答しづらいと考えられます。
無性愛者の人口を明らかにするのは難しい
今回のイングランドとウェールズの2021年の国勢調査の結果である「0.06%」、イプソス(Ipsos)が2022年に発表したレポートの結果である「2%」。どちらが正しいかはわかりません。どちらも正確ではないかもしれません。
同様の調査は過去にも行われています。
2004年に行われたイギリスに住む16歳から59歳を対象にした「性に対する態度とライフスタイルに関する全国調査」では回答者のうち「1.1%」がアセクシュアルであると示しています。
電通が2020年に行った「LGBTQ+調査2020」では、日本の全国20~59歳の計60000人のうち、「0.81%」の人が自分をアセクシュアル・アロマンティックと自認していたことが報告されています。
アセクシュアル・アロマンティックの人口を把握するのは難しいです。そもそもアセクシュアル・アロマンティックという概念の認知度が低く、自分の性的指向や恋愛的指向を判断できる人は限られます。
アセクシュアル・アロマンティックは非常にスペクトラムのある概念であり、想像以上に範囲を広くカバーしています。決して「性的に惹かれるか、否か」という二択の話ではありません。
今後、アセクシュアル・アロマンティックの正しい認知度が広がれば、アセクシュアル・アロマンティックの人口をより正確に把握できるようになり、回答者の割合も増えることが予想されます。
どちらにせよアセクシュアル・アロマンティックの人は世界中にいます。これは紛れもない事実です。同じ仲間が何万、何十万、何百万といることを実感できるのは当事者にとっては頼もしい話題となるでしょう。