第26回参議院選挙が始まる
第26回参議院選挙(第26回参議院議員通常選挙)が6月22日の公示、7月10日の投開票の日程で開始されます。
そもそも参議院選挙とは、政治家である参議院議員の任期は6年で、3年ごとに議員の半数が改選されるので、その議員を誰にするかを国民の皆さんで投票して決める選挙のことです。この結果によってどんな議員の顔ぶれになるのか、これが今後の日本の政治の方向性に大きな影響を与え、私たち庶民の生活にも関係してくることになります。
「投票なんて行ったことがない」「投票して意味があるの?」…そんな意見もあるでしょう。しかし、選挙の結果は先ほども書いたように私たちの生活に無視できない甚大な影響をもたらします。私たちの人生をとりまくあらゆるもの…日々支払っている消費税などの税金、電気・ガスなどのインフラや公共サービス、職場での給料や労働環境、学校での教育の内容、はたまたエンタメなどの個人的な趣味…それらが全て政治を土台にしており、政治に関係のないものなんて存在しません。社会で生きているかぎり、政治とは切っても切れない縁なのです。
そしてセクシュアル・マイノリティ、とくにアセクシュアル(アセクシャル)やアロマンティックの人たちにとっても、今回の参議院選挙は無関係とは言えません。アセクシュアルやアロマンティックに関係するような政策や議題が争点となっているからです。
しかし、具体的にはどんなことが争点になっているのか。情報をよく知らない人もいるでしょう。そこでこのページでは、今回の参議院選挙の争点のうち、アセクシュアルやアロマンティックに関係しそうな主なものをピックアップして紹介し、整理しています。
投票する政党や候補者を決める際の参考にしてください。
アセクシュアルやアロマンティックに関係する議題
LGBTQに関する法律
アセクシュアルやアロマンティックに最も関係してくるであろう議題、それは「LGBTQに関する法律」です。近年になって日本でもセクシュアル・マイノリティへの関心が急激に高まり、話題になる機会が増えました。選挙の争点のひとつになることは少し前までは考えられなかったことです。これは大きな変革のチャンスでもあります。
現在、この議題において争点の主題となっているのは、法律の制定です。今の日本では各政党は「理解増進」を目的とする法律を制定するか、「差別解消」を目的とする法律を制定するかで、大まかに言えば割れています。理解だけではダメで根本的な差別を解消しないと意味がないという立場をとっているのが後者の法律です。一方で、そうした差別解消を目的に掲げる法律でも、アセクシュアルやアロマンティックまで網羅した実効性のある差別の解消のための施策が実現するのかは未知数です。同性愛(ゲイやレズビアン)やトランスジェンダーだけでなく、アセクシュアルやアロマンティックのことも忘れずに包括する議論ができているのか…そこも注視をするといいでしょう。
同性婚(結婚の平等)
日本では異性同士(男女)の結婚はできますが、同性同士では結婚はできません。現在は各自治体でパートナーシップ制度が用意されて実行されている地域もありますが、これは誤解している人もいるのですが、同性婚ではありません(パートナーシップ制度は結婚とは違います)。
アセクシュアルやアロマンティックにとって同性婚は関係あるのか。もちろん関係はあります。なぜならアセクシュアルやアロマンティックの当事者の中には、同性同士での結婚を望んでいる人もいるからです。結婚は恋愛や性的関係を土台に行わなくてはいけないというルールはありません。他者と婚約したいと思えば、その動機を問わず結婚はできます。なのでアセクシュアルやアロマンティックの人にとっても関係のない話ではないです。アセクシュアルやアロマンティックの人でも、異性結婚はできて、同性結婚はできないという現状は不公平です。
また、同性結婚を認めない過去の裁判の事例を見ていると、「婚姻の目的は生殖である」という主張が判決では繰り返されていることがあり、これは同性愛だけではなく、他者と性的関係を求めないアセクシュアルを全否定するものだとも言えます。
同性結婚が可能となれば、結婚の平等を目指す一歩となります。性別に限らず結婚する自由、結婚しても子どもを持たない自由、誰とも結婚しない自由…それらの平等です。友情結婚などの多様な家族のかたちも肯定されやすくなるでしょう。
政党によっては同性結婚の実現に積極的な党もあれば、消極的な党もいます。
選択的夫婦別姓制度
現在、日本では夫婦は同姓でなければいけないことになっており、たいていは女性が男性の姓に合わせることになっているのが実情で、とても家父長的な構図となっています。これは日本の家族の在り方を単調なものにしている主因のひとつです。
アセクシュアルやアロマンティックの人は必ずしも結婚を望んでいる人ばかりではなく、むしろ結婚はしたくないと考える人も少なくはありません。一方で、結婚が嫌な理由は家父長的な家族に繋がってしまうからだと懸念している人もいます。
選択的夫婦別姓制度は、夫婦の姓を統一するか、別にするかを個人で自由に選べるという制度です。家族のかたちが多様になるので、これも同性結婚と同様に、アセクシュアルやアロマンティックの人にとっては生きやすさに繋がりやすいでしょう。選択的夫婦別姓制度が実現すれば、「姓が変わる=結婚した(姓が一向に変わらない=結婚していない)」という認識もなくなるので、結婚への視線圧力のような周囲の空気も薄くなると思われます。とくにこれは姓の変化を期待されがちな女性に該当するアセクシュアルやアロマンティックの当事者にとっては苦しいと感じていた人もいるでしょう。
政党によっては選択的夫婦別姓制度の実現に積極的な党もあれば、消極的な党もいます。
社会保障
アセクシュアルやアロマンティックの人の中には、ひとりで生活することを望む人もいます。そういう人にとって最も心配なのがひとりでも生活していけるのかということです。
ひとりでの生活に欠かせないのが社会保障制度です。医療や年金などの社会保障の仕組みが整っていれば、ひとりの生活でも比較的安心して暮らせます。逆に社会保障が乏しく、負担ばかりが重ければ、ひとりで生活するのは困難になってしまいます。
今の日本は、家族での暮らしを前提とした社会保障の仕組みとなっています。社会保障の改革を掲げる政党はたくさんありますが、それはひとり暮らしを望む人にも利益のあるものなのか…。その観点で評価していくのもいいでしょう。
憲法改正
憲法改正の議論が日本では進んでいます。どうしても戦争に関わる「憲法9条」の話題ばかりが取り上げられがちですし、それも大切なのは当然ですが、アセクシュアルやアロマンティックの人にとっては無視できないのは「憲法24条」の改正です。
「憲法24条」は簡単に言うと日本の「家族」の在り方に言及しています。家族や婚姻に関する基本原則を定めており、これが全ての法律の土台となっているので、非常に重要です。
一部の政党はこの「憲法24条」の改正を検討しており、具体的には「家族」の概念をより固定的に強調する内容へと変更する案もでています。これによって日本の家族の在り方が今以上に狭められる可能性も危惧されています。
アセクシュアルやアロマンティックの人の中には、既存の家族の規範が好ましいと思っていない人もいます。恋愛伴侶規範や性愛至上主義的な価値観に苦しめられてきたアセクシュアルやアロマンティックの人はたくさんいます。憲法改正の内容によってはさらに家族の規範がキツくなる恐れがあり、心配されるところです。
とにかく投票にいこう
上記で挙げた以外にもさまざまな議題があります。労働のしやすさ、性犯罪対策、性教育…まだまだアセクシュアルやアロマンティックに関係するトピックはあります。
各政党の公約や姿勢などは以下のサイトなどに整理されているので、そちらを参照してください。
アセクシュアルやアロマンティックは目に見えない存在として社会では不可視化されてきました。ではどうやって「アセクシュアルやアロマンティックはここにいる!」と訴えていけばいいのか。当事者が集まるコミュニティができあがるのもいいですし、情報がまとまったウェブサイトが作られるのもいいですし、ドラマや漫画などの中で当事者が描かれるのもだいじです。けれども選挙に投票しに行くのも同じくらいに、いや、それ以上に大きな意味があります。
選挙は政治家の人気投票ではありません。国民が政治家や政党に主張できる場です。「もっとちゃんと仕事をして!」と怒りに行くつもりでもいいでしょう。投票しなければ、それは「現状でもいい(どんな目に遭ってもいい)」と支持したことになってしまいます。
アセクシュアルやアロマンティックを無視する日本社会を終わらせるための一票を握っているのは皆さんです。