皆さんはゲームは好きですか。でもゲームにアセクシュアルやアロマンティックという存在が無視され続けていることに不満を持っていませんか。
そんなあなたに朗報です。『ザ・シムズ4(The Sims 4)』が長年の夢を実現してくれました。
ゲームのアバター
携帯機、専用ハード、パソコン、スマホ…。今はいろいろなゲームが存在しています。そのゲームに欠かせないのはプレイヤーが操作することになる「主人公」です。
その中には明確に最初から設定されたひとりもしくは複数の主人公が存在するケースと、プレイヤーが自由に「アバター」として主人公をクリエイトできるケースがあります。
このアバターはゲーム・プレイヤーにとって大切です。自分の分身であり、プレイ中はずっとそのアバターを見続けることになります。
昔はアバターを作れるゲームでも設定できる項目は少ないものでした。しかし、最近はゲームの映像クオリティや処理能力の向上にともない、このアバターのクリエイトもとても複雑化して多様な項目を好きなように設定できるようになりました。
髪、目、鼻、口、耳、ほくろの有無、顔の輪郭、手足、服装、体型、声、肌の色…。その組み合わせはもはや無限大であり、自分だけのアバターを作れるゲームもあります。
アバターはプレイヤーの分身であり、自分の思いが反映されやすいです。なのでこうしたアバターの創作の自由度があがることを歓迎するプレイヤーは多く、ゲーム開発者もアバターを作れるゲームの場合はその選択肢を増やすことに懸命になっています。
「シム」シリーズとは?
アバターを作れるゲームとして昔から有名なタイトルに『シムピープル』というシリーズがあります。
このゲームはもともとは『シムシティ』というゲームが土台にあります。『シムシティ』は、プレイヤーが市長となり、街を建設・発展させていくシミュレーションゲームであり、最初のタイトルは1989年に登場しました。かなり本格的なシミュレーションが可能で、建物も住宅・商業・工業地区などの他にエンターテインメント関連、医療、学校…とにかくさまざま。そこに道路や鉄道など交通機関、電力や水道などの各種インフラを整備し、警察署を作って犯罪を防止し、救急車で怪我人を運び、環境保護を重視して公害を防いだり、火災や地震などの災害への対応したり、財政面を考えたり、条例を作ったり…とにかくやることが膨大なほどに多いゲームです。しかし、その精密さがマニアには支持され、大人気のシミュレーションゲームとして有名になりました。
その『シムシティ』で作られた街に暮らす人間を「シム」と呼び、『シムシティ』ではプレイヤーが作った街の中をシムたちが無数に動き回り、それを眺めることができました。
この「シム」に焦点をあてて、より「シム」の目線で生活を楽しんでいく姿をシミュレーションする目的に特化したゲームが『シムピープル』シリーズであり、2000年に1作目が発売し、2004年に2作目の『ザ・シムズ2』、2009年に3作目の『ザ・シムズ3』、そして2014年に4作目の『ザ・シムズ4』がそれぞれ発売されています。
この『シムピープル』シリーズでは、プレイヤーはゲーム開始時に「シム」の人種、性格、年齢層、性別などを設定し、後はシムの日常生活の行動に個別に指示を出し、就職、恋愛、結婚、出産などの出来事をシムを通して体験していくことになります。もうひとりの自分が別の世界で生きているのを眺めているようなものです。
アセクシュアルやアロマンティックの設定が追加!
この『ザ・シムズ4』で、2022年7月に「High School Years」という拡張パックが追加されたのですが、そこでシムの設定に「アセクシュアル(アセクシャル)」と「アロマンティック」が加わり、それが「Polygon」や「PinkNews」などのメディアでも話題になりました。
もともとこの『ザ・シムズ4』はLGBTQを包括するような改善に積極的に取り組んでいました。
発売当初の『ザ・シムズ4』では、男性か女性の性別のシンボルを使って性別が表現され、身体的特徴に基づいて代名詞が選ばれるシステムが採用されており、かなりワンパターンでした。その後、2016年にシムが男性的な服を好むか女性的な服を好むか、妊娠できるか、トイレに座るかなどを選択し、より柔軟性が増しました。さらに男性か女性のどちらかに制限されていた衣料品やアクセサリーが、性別を超えて利用できるようになり、会話のスタイル、ヘアカット、歩行などの個々の特性は、最初の性別の選択に関係なく、より自由にアクセスできるようになるなど、改良がどんどん加えられました。最近もあらかじめ用意された代名詞(they/them、she/her、he/him)を選択するか、自分自身で代名詞を作成して設定することを選ぶことができるようになる改良があったばかりです。
最新の『ザ・シムズ4』ではこれまでのように同性同士の恋愛が可能になるだけでなく、今回の拡張では、性的指向の設定に「恋愛的な魅力を誰に感じるか? ⇒ 男性 or 女性」という項目の他に、「恋愛的な関係を求めているか? ⇒ Yes or No」の項目も追加され、組み合わせのバリエーションが増え、アセクシュアルやアロマンティックの指向を実質的に設定することができるようになりました。
今後はノンバイナリーの設定の追加にも意欲的であると開発者は発表しています。
『ザ・シムズ4』の開発元である「エレクトロニック・アーツ」はLGBTQの専門組織「GLAAD」からアドバイスを受けながら今回のアップデートを実現したそうです。
実は『シムピープル』シリーズとLGBTQには昔から深い関係があります。1999年。まだゲームにLGBTQの存在が内包されることが滅多になかった時代。「Electronic Entertainment Expo(E3)」というゲームイベントで『シムピープル』の1作目の試作が展示されたのですが、その際にゲーム内で女性キャラクター同士の結婚が展開され、多くのゲームファンは「そんなこともできるのか」と騒然となるという事件が起きました(The Washington Post)。それから23年後、アセクシュアルやアロマンティックの設定までできるほどに変化することに。ゲームの歴史を考えると感慨深い出来事です。
今後はより多くのゲームでアセクシュアルやアロマンティックの存在が当たり前になることが望まれます。
『ザ・シムズ4』は日本でもプレイすることが可能です。