- Qアセクシュアル(アセクシャル)やアロマンティックというのは最近の流行なのですか? 新しく作られた言葉ですか?
- A
いいえ。流行ではありません。アセクシュアルやアロマンティックは昔からずっと社会に存在していますし、言葉にも歴史があります。
流行りではありません!
「アセクシュアル」とか「アロマンティック」って最近の流行なんだよね?…と言ってくる人がいたんだけど…。
う~ん、残念ながらそういう発言をする人はいるんだよね…。しかもあちこちに…。
でも実際に最近になってからこの言葉を聞くようになったと思っている人も多いと思います。
それはインターネットやSNSが発達して情報が簡単に拡散しやすくなったからだと思うよ。日本では「LGBT」の話題が2010年代後半からグっと増えたというのもあるね。メディアが関心を持ちだすと言葉の認知や普及も加速するよね。
じゃあ、アセクシュアルやアロマンティックは最近になって流行り出した…とかではないの?
そうなんだ。アセクシュアルやアロマンティックはみんなが思っている以上に歴史があるんだよ。
どれくらい昔からあるの?
もちろん人類が地球に誕生したときからアセクシュアルやアロマンティックのような性的に惹かれない人・恋愛的に惹かれない人はいたと思う。資料として残りようがないけどね。
そりゃそうだね。原始人は本もブログもSNSも書いてないもんね。
明確な資料がある歴史についてなら、今からかいつまんで話をしていこう。
“始まり”から権利と平等を求めていた
アセクシュアルのような「望んで性的関係を持たない」という生き方を高らかに主張した最初の出来事。それは19世紀に遡るよ。
19世紀。1800年代だね。
ちょうどその時期、イギリスなどヨーロッパの列強諸国を中心に「フェミニズム」の活動が活発になったんだ。フェミニズムというのは女性が男性と平等の権利を獲得するための権利運動のことだね。
それとアセクシュアルやアロマンティックに何の関係が?
当時は、女性は伴侶の男性と性的関係を持つのが正しい姿とされていたのだけど、フェミニストたちの一部はこれに異を唱えたんだ。例えば、イギリスの婦人参政権論者の「エリザベス・ウォルステンホルム・エルミー」は性的欲求は自然なものではないと主張したよ。
なるほどね。そういう流れがあったんだね。
もちろん当時のこの主張はアセクシュアルを意識したものではなかったかもしれない。でも今のアセクシュアルにも大きな影響を与える出発点になったよね。
100年以上も前にアセクシュアルの原点があったのかぁ…。
さらに1907年。アメリカ最初のゲイ活動家として有名な「カール・シュレーゲル」がアセクシュアルの権利についても同性愛や両性愛と並べて平等を主張したんだ。
アメリカでもそんな昔から!
ここで大事なのは「同性愛や両性愛と並べて」というところだね。要するにもうこの頃からアセクシュアルは他の性的少数者と同じステージに立って、平等の権利を訴えていたんだよ。
アセクシュアルだけ仲間外れだった…ということではないんだね。
しかもこの「カール・シュレーゲル」は「asexual」という言葉もしっかり使っているんだよ。
言葉としてもそんな前から使われていたってことは、やっぱりアセクシュアルは新語でも何でもないね。
2000年代にリニューアル
アセクシュアルはわかったのだけど、アロマンティックはどうなの?
概念は昔からあったよ。1879年に、性科学者でゲイ権利運動の先駆者とされる「カール・ハインリッヒ・ウルリッヒス」は性愛と恋愛を分ける考えを提唱したんだ。
性的魅力と恋愛的魅力を分ける今の考え方に近いね。
1979年には、心理学者の「ドロシー・テノフ」が、ロマンティックな魅力からくる精神状態を「limerent」と表現し、その状態がないことを「non-limerent」と位置付けたりもした。
アロマンティックにちょっと似ているね。
「aromantic」という恋愛的指向のひとつを示す単語自体は、2000年代に入ってすぐ初期に整理されて生まれたんだ。つまり、概念としては以前からあったけど、2000年代始めにリニューアルした…みたいな感じだね。
リニューアルね。
そう、1900年代のアセクシュアルも用語としての定義が曖昧だったから当事者もまとまりづらかったんだ。そこで2001年にアセクシュアル最大のオンライン・コミュニティ「The Asexual Visibility and Education Network(AVEN)」が設立されたのを機に議論が活発化。用語の定義も定まって「アセクシュアル」「アロマンティック」として今の意味に至るよ。
じゃあ、最近の流行りではなくて、最近になってコミュニティとしての土台ができたというべきなのかな。
まあ、そうだね。当事者コミュニティとしての運動がやっと地に足ついて本格化し始めたね。
これからの歴史は私たちが作る
アセクシュアルやアロマンティックは最近の流行語…みたいな主張は大間違いだとわかりました。
中にはアセクシュアルやアロマンティックは最近になって生まれたインターネット用語だから、ゲイやトランスジェンダーと比べて歴史が浅いので議論に加えるのは早いと言い放つ人もいるけど、それはデタラメもいいところだよ。
うん、そうだよね。100年以上昔からあって、しかも権利を訴え続けてきたんだから。
アセクシュアルやアロマンティックの当事者は何も流行りに乗っかっているわけではない。これはファッションとか趣味の話ではないし、振る舞いの問題でもないんだ。自分のアイデンティティに悩みながら、必死に生き方を模索し、そして声をあげてきた。その脈々と継承してきた歴史そのものだ。ただのラベルじゃない。だから無知でバカにされると腹が立つよ。
あまりその歴史は語られないからわかってもらえてないけどね。
当事者もこんな歴史があったなんて知らない人も多いと思う。でも歴史を知ると勇気をもらえることもある。先人たちが苦悩と闘いで築き上げたものの上に今の私たちは立っているからね。
「ありがとう」という感謝の気持ちと同時に、自分も未来に繋がる歴史の一部に立っているのかもと思っちゃうね。ちっぽけな存在だけど。
そう、きっと50年後、100年後、私たちが歴史の一部になるときが来る。その未来に「この時代のアセクシュアルやアロマンティックの人は何をしていたの?」と言われたとき、何と答えられるか、それは今の私たちの行動にかかっているのかもね。
何ができるかな…。
とりあえず「アセクシュアルやアロマンティックはただの流行りだ」という誤解や偏見を吹き飛ばしてみようか。もしそう言われたら…。
「違います。勉強でもしてください」って言い返してやろうかな。
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編集部コメント
アセクシュアルやアロマンティックは流行(トレンド)ではありません。新語でもありません。歴史があります。
今回の紹介した歴史はほんの一部です。より詳細なアセクシュアルやアロマンティックの歴史を年表形式で以下の別記事で整理しているので参考にしてください。