SNSと違って差別的コメントや不快な広告が一切ない安心の空間です。

LGBT支援団体「にじーず」がグルーミング陰謀論を理由にTwitterアカウント休止に追い込まれる

LGBT支援団体「にじーず」がグルーミング陰謀論を理由にTwitterアカウント休止に追い込まれる

日本にはセクシュアル・マイノリティ(性的少数者)を支援する団体がいくつもあります。ゲイ・レズビアン・バイセクシュアル・トランスジェンダー以外にもアセクシュアルやアロマンティックを包括した支援団体が各地で展開しており、悩みを抱える当事者の居場所となっています。

そんな中、LGBTの子どもや若者を支援することを主な活動としている団体「にじーず」が、ネット上で蔓延する陰謀論を信じている人たちによって、Twitterアカウントを休止する状態に追い込まれる出来事が2023年6月に起きました。

「にじーず」とは?

「にじーず」は10代から23歳までのLGBT(かもしれない人を含む)当事者が気兼ねなく集まることができるオープンデーを定期開催している一般社団法人です。2016年8月に任意団体として東京で発足し、現在では全国各地に拠点を増やしています。公式ウェブサイトでは、「にじーず」のミッションは「LGBTの子ども・若者が安心して思春期をサバイバルできるつながりを作ること」であると説明しています。

2021年の活動報告書によれば、これまでの延べ参加者数は約2000人。以前から活動していた東京、札幌、埼玉、京都に加え、2021年度は新たに岡山と神戸の拠点がスタートし、全国6拠点となっています。2021年度は全国で計46回のオープンデーを開催。オンライン相談も受け付けており、公開イベントも開催しながら、セクシュアル・マイノリティをサポートする社会の実現に向けた活動を積み重ねています。

参加者の年齢は13~15歳(中学生年代)が10.7%、16~18歳(高校生年代)は51.8%、19~23歳(大学生年代)は37.5%。ゲイ・レズビアン・バイセクシュアル・トランスジェンダー以外にもノンバイナリー(Xジェンダー)、アセクシュアル、アロマンティックといったさまざまな当事者を包括した活動を展開しています。

「にじーず」の代表は“遠藤まめた”氏で、『みんな自分らしくいるためのはじめてのLGBT』(筑摩書房)や『教師だから知っておきたいLGBT入門―すべての子どもたちの味方になるために』(ほんの森出版)といった著作も豊富な、日本で積極的にLGBT関連の活動を行っている人物です。トランスジェンダー当事者でもあります。

急に沸き起こる児童虐待疑惑

その「にじーず」ですが、SNSでも積極的に活動をアピールし、当事者と繋がるための活動を展開していましたが、2023年6月にTwitterアカウントを休止する事態となってしまいました。

一体何が起きたのか。その理由はSNSで沸き起こったある話題でした。それは「にじーず」が参加する子どもを虐待しているというもので、具体的には「子どもを都合よく手懐けている」「参加者を身体的な性別移行を推奨している/洗脳している」「子どもの保護者と敵対している」「小学生にセックスを教えている」などといった主張です。こうした主張が派生して「”にじーず”はやばい」という漠然とした危険視する声をSNS上で増幅させています。

これらの主張に対して「にじーず」はいずれも事実無根であるとして公式ウェブサイト上で丁寧に説明しています。

しかし、とくにTwitterではセクシュアル・マイノリティへの差別が激化している実情が確認されており、「にじーず」およびその関係者も差別による攻撃を受けている状態でした。そうしたこともあり、「にじーず」では「若年当事者に与える影響を考慮して、当団体のアカウントは本日をもって休止します」と説明し、アカウント休止を実施するに至ったようです。

代表の“遠藤まめた”氏は自身のTwitterアカウントにて「LGBTユースのみなさん。心配させてしまってすみません。Twitterはあまりに差別的な場所なのでアカウントを消しますが、にじーずはどこにも行きません。HPなどで情報発信していくので、よければ遊びに来てください」と語りかけています。

世界中で問題を起こすグルーミング陰謀論

この「にじーず」に沸き起こった一連の事実無根の児童虐待疑惑。実は世界中で同じようなLGBT支援団体が同様の状況に見舞われています。

アメリカやイギリスで活動している当事者の子どもを対象としたLGBT支援団体やイベントがそのターゲットにされ、「子どもを虐待している」「子どもを性的に扱っている」と一部から非難を浴びる出来事が多発しているのです。当然、実際にそのLGBT支援団体やイベントが子どもを虐待したという事実は確認されていません。

これは「グルーミング陰謀論」と呼ばれています。

「グルーミング」とは、本体は「性的虐待を行おうと狙う加害者が、子どもに優しく接して近づこうとする行為」のことを指します。残念ながら一部のLGBTに反対する人たちは、セクシュアル・マイノリティの大人を性犯罪者のようにみなして攻撃することが昔からありました。そして「LGBT支援団体やイベントでは子どもが性的虐待に晒されている」という恐怖を煽る言動が、パニックを誘発するように拡大しており、半ば「陰謀論」と化しています。

この「グルーミング陰謀論」はもともとは保守や極右といった政治勢力の間で生まれたもので、1970年代にまで遡れますNPR。現在でも広範囲にわたっていろいろな人がこの陰謀論を信じきっている状況が確認されています。中には「LGBTQにはペドフィリア(小児性愛)が含まれる」といった完全に実態と異なる主張も蔓延しており、収拾がつかないことになっています。

日本でも2023年5月に「LGBT理解増進法案」の検討が政府内で進んだことから、一部でLGBTへの苛烈なバッシングが目立つようになり、セクシュアル・マイノリティへの差別による攻撃もSNS上で激化するようになり始めました。とくにトランスジェンダーへの差別は深刻で、権利運動に関わる人物に殺害予告が送られる脅迫事件も起きています。

こうした差別や陰謀論は、今後も日本で急拡大する可能性が心配されます。


セクシュアル・マイノリティの子どもを取り巻く状況は依然として悲しい現実があり、差別や偏見がまかりとおっています。当事者に支援の手を差し伸べられずに孤立させてしまうことはあってはいけません。誰にも相談できずに悩んでいる当事者はたくさんいます。社会は差別の無い平等な世界の実現に向けて一層尽力していくべきでしょう。

「にじーず」はTwitterアカウントは休止しましたが、活動は継続していくとのことです。詳しい活動は公式ウェブサイトをご確認ください。