アセクシュアル（アセクシャル）でも勃起はしますか？

基本的にはね。厳密にいろいろあって、結果的に性行為をする人もいるけどね。「キュピオセクシュアル」というラベルもあるし…。

何かな？

なるほど、その質問はよくあるものだね。当事者の人にずばり聞くのは失礼だろうけど、ここでなら質問はしてOKだよ。

結論から言うと、アセクシュアルの人でも勃起することはあるよ。だから「アセクシュアルなのに勃起するって変じゃないかな？」と心配することはないよ。

これについて解説するにはまず「勃起」とは何か、その基本から説明しないといけないね。

「勃起」というのは、普段はフニャっと縮こまっている男性器（ペニス）が固く硬直して大きく棒状になる現象のことをいいます。この勃起状態でないと、挿入を伴う性行為を適切にすることはできません。

ではどういうメカニズムで勃起しているのか知ってる？

勃起って単純な現象だと思われやすいけど、実は複雑な過程があるんだよ。

陰茎には「陰茎海綿体」というものがあってこれは血管が無数に集まったスポンジ状のものなんだよね。勃起していない時には陰茎海綿体の血管や平滑筋は収縮しているだけです。

でも「性的刺激」を受けると、まず脳の中枢神経が反応し、その情報が脊髄神経を通って陰茎へと伝わります。すると体内では一酸化窒素が放出されて、各種の動脈が緩み、やがて海綿体へと血が流れ込み、血液の圧力によって、海綿体は硬くなります。これが「勃起」という現象だよ。

陰茎の内圧が上がることで勃起を維持するんだね。

勃起を起こすには特定の物質が大きく関わるのだけど、その物質を妨げる酵素が陰茎海綿体にはあるんだよね。この酵素のおかげで普段からずっと勃起し続けることはないし、必要な時だけ勃起するようになるのです。

で、ここで注目してほしいのは勃起のきっかけとなる「性的刺激」という言葉だね。何気なく説明で使われることも多いけど、そもそも「性的刺激」って何だろう？

そう、性的刺激というのは何をもって性的な刺激なのか。それは人によって全然違うんだよね。極端な話、何を「性的」と捉えるのかも個人で違うのだから。

そうなんだよね。何を「性的」とみなすかは、社会的・文化的な要素が関わってくるからね。そう考えると勃起というのは生物学的現象と認識されやすいけど、社会的・文化的な影響も深く関わってくるんだね。

人によっては、裸とかだけではない、例えば特定のアイテムを見ただけでもそれを「性的刺激」と捉えるかもしれないし、何かしらのシチュエーションや環境を「性的刺激」と受け取るかもしれない。もしくは耳から入ってくる言葉かもしれない。それに温度変化とか振動とか匂いとか、そういう刺激でもいいかもしれない。

時には刺激とか関係なしに勃起することもある。世間では「朝立ち」と呼ばれる現象があって、これは就寝中にいつのまにか勃起しているというもの。その理由はエッチな夢を見ているからとかではなく、寝ているときに起きる副交感神経の影響なんだよ。

勃起はさっきも言ったようにいろいろな過程（脳、神経、血管、酵素など）が関与してくるので、そこにひとつでも問題があると勃起しなかったりするし、自分で意識しないままに勃起していることもある。

感覚としては「くしゃみ」とか「身震いする」とかに近い、非随意的な生理現象だと思ってもらえればいいんじゃないかな。それに男性だって勃起が何なのか正しく理解していない人は多いよ。

どうしても勃起というと「エロい光景に出くわしてペニスがセンサーのように反応する」みたいな誇張されたイメージを漫画やポルノなどで覚えてしまっている男性が多いんだよね。でも実際はそうじゃない。勃起は複雑な過程のうえで起きるものなんだということ。性的刺激といっても人によって違うこと。そういう正確な理解は普及していないのが現状だね。

だからね、いざ性行為をしようと相手を目の前にして「あれ、自分は勃起しないぞ？ もしかしてアセクシュアルなのか？」と不安になる必要はないよ。勃起するのが常に当たり前というわけじゃないから。

そしてアセクシュアルの人でも勃起は起きうるものだということも仕組みとしてわかったかな？

そう、とくに「性的刺激を受ける」は自分のコントロール下にないものだからね。自分の意識しないうちに刺激は脳が感じていても、性的魅力としては感じていない…ということも普通にある。

とりあえず勃起の有無で性的指向を判断はできない。それはしっかり把握しておこうね。