- Qアセクシュアル(アセクシャル)やアロマンティックは「マイノリティの中のマイノリティ」と言えるものですか?
- A
いいえ。確かに無性愛はマイノリティです。しかし、マイノリティ同士にあるのは優劣ではなく交差性です。
「Ace/Aro」はセクシュアル・マイノリティ
他者に性的に惹かれない「アセクシュアル(アセクシャル)」や、他者に恋愛的に惹かれない「アロマンティック」は、マイノリティなんですよね。
うん。マイノリティ。正確には「セクシュアル・マイノリティ」と言って、日本語では「性的少数者」とか、または「セクマイ」と略されたりもするね。「マイノリティ」の反対の言葉は「マジョリティ」だ。
マイノリティというのは「数が少ない」という意味なの?
いや、数は関係ないよ。仮に数が多くてもマイノリティと言える。マイノリティというのは既存の規範的な社会構造の中で「弱い立場にいる人」を意味しているよ。構造的な差別を受けやすい側だとも言えるね。
じゃあ、セクシュアル・マイノリティというのは、マイノリティの中でも「性」に関係する人たちってことだね。
そういうことになるね。
さっきの説明だと「社会構造」だとか「構造的な差別」とか言ってたけどこれはどういうこと?
どうしてもマイノリティに関する差別の問題は「不快に思うかどうか」という“お気持ち”や“感情論”の話だと誤解されることが多い。
うんうん。
でも実際は違う。マイノリティは構造的な問題であり、それは歴史的観点や科学的観点などで客観性をともなって説明できることなんだ。こういう構造こそがマイノリティを語るうえで大事になってくるよ。
セクシュアル・マイノリティも差別の歴史があるもんね…。
アセクシュアルやアロマンティック以外にも、ゲイ、レズビアン、バイセクシュアル、パンセクシュアルなどたくさんのマイノリティとされる性的指向や恋愛的指向があるね。
マイノリティの中のマイノリティ?
アセクシュアルやアロマンティックがマイノリティなのはわかったけど、やっぱりアセクシュアルやアロマンティックはマイノリティの中でもとくにマイノリティなんですか?
う~ん…アセクシュアルやアロマンティックは「マイノリティの中のマイノリティ」であるという主張は確かに目にしたりするけど…それはちょっと安易すぎるんじゃないかとも思うよ。
なんでですか? だってアセクシュアルやアロマンティックは認知も低いし、それを描いた作品だってものすごく少ないし、明らかに他のセクシュアル・マイノリティよりも目立たないですよね?
そうだね。だからアセクシュアルやアロマンティックは「最も見えづらい性的指向や恋愛的指向」だとは言われているね。でも「マイノリティの中のマイノリティ」という言い回しは少し論点がずれてしまうと思う。
むむむ…。
そもそもマイノリティというのはこれも誤解されやすいことだけど、優劣をつけるためのものじゃない。「AはBよりもマイノリティだ」「CはAよりもさらにマイノリティだ」といった感じで安直に順位付けするのは違うよ。
そんなふうに考えている人も多そうだよね…。
マイノリティというのは別に「どっちが一番可哀想なのか」合戦を繰り広げているわけじゃないんだ。マイノリティ同士でそれを競い合っているわけでもない。
「マイノリティの中のマイノリティ」という言い方だとランキング付けをしてしまっているように見えるね。
そう。だから「マイノリティの中のマイノリティ」という言葉を安易に使うと、下手するとその人は差別構造に無頓着なんじゃないか、視野が狭いのではないかと思われかねないよ。
どうして視野が狭いことになるの?
なぜなら「マイノリティ」と呼ばれるものは他にもたくさんあるからだよ。
交差性(インターセクショナリティ)
マイノリティは他にもあるの?
セクシュアル・マイノリティだと性的指向や恋愛的指向だけではない。性自認(ジェンダー・アイデンティティ)もある。トランスジェンダー、ノンバイナリー、Xジェンダーとかだね。
それはわかるね。
あと単純に「男性」と「女性」という二者だけで見ても、女性の方がマイノリティで、多くの差別を受けているよね。
そうですね。
「人種」にもマイノリティはある。日本だと明らかに容姿だけで典型的な「日本人」であると認識されるならいいけど、そう認識されない肌の人や名前の人はマイノリティな人種的要素を持っていると言えるね。
外国人差別というのが日本にはあるもんね。
「障がい」や「病気」の有無というのもある。これは「アビリティ」や「ニューロ・ダイバーシティ」と言ったりもするね。関連して心の観点から「メンタリティ」でも差は生まれる。
特定の障がいや病気の人は生きづらい社会環境なのは確かに…。
この他にも「職業」「経済状況(貧富)」「年齢」「宗教」…いろいろな視点でマイノリティというのは存在しているんだよ。
そうか、これだけマイノリティがいっぱいあると、それらを順位付けして「マイノリティの中のマイノリティ」なんて言い切るのは無理難題だよね。
そう、例えば同じアセクシュアルやアロマンティックの人たちの中でも、性自認がトランスジェンダーだったり、人種・民族が朝鮮系やアイヌだったり、下半身麻痺で車椅子ユーザーだったり、自閉症スペクトラムを抱えていたり…そういう複雑なマイノリティ性を持っている人はいるよね。
うん。そう考えるとみんなバラバラですね。
こんなふうに人種や性別、性的指向、国籍、障がいなどのマイノリティとなりうる属性が交差したときに起こる差別や不利益を理解する枠組みのことを「インターセクショナリティ」と呼ぶんだよ。日本語では「交差性」と言ったりもするね。
インターセクショナリティ…。
先ほども言った構造的な差別を理解するためにインターセクショナリティは大切なことだね。複雑だから把握は困難だけど、ひとつひとつ勉強していくことで、自分の中にあるマイノリティな部分とマジョリティ部分がわかってくる。
そっか、アセクシュアルやアロマンティックだからその点ではマイノリティだけど、他の点ではマジョリティかもしれないんですね。
マイノリティ同士にあるのは優劣ではなく交差性(インターセクショナリティ)なんだよ。「マイノリティの中のマイノリティ」という言葉を使う前に、もっといろんな構造に目を向けて考えていきたいね。
自分が気づかないうちに差別の加害者になってしまわないためにもね。
次のオススメな疑問解決
- アセクシュアル・アロマンティックはLGBTに含まれますか?
- アセクシュアル(アセクシャル)の人は同性愛者と勘違いされやすいのはなぜですか?
- 同性婚の合法化を求める運動はアセクシュアル(アセクシャル)には関係がないことですか?
編集部コメント
アセクシュアル・アロマンティックは他の性的指向や恋愛的指向と比べて目立たずに注目も低い傾向にありますが、「マイノリティの中のマイノリティ」と表現するのは不適切な面が大きいです。常にインターセクショナリティ(交差性)を意識し、マイノリティ同士を勝手に順位付けしないようにしましょう。
類似質問ワード
「AセクAロマはマイノリティの中のマイノリティ?」