- Qアセクシュアル(アセクシャル)やアロマンティックの人はカミングアウトするべきですか?
- A
カミングアウトするかしないかは個人の自由です。カミングアウトは強制されるものではありません。自分のことを第一に考えて判断してください。
カミングアウトとは?

セクシュアル・マイノリティの界隈では「カミングアウト」という言葉がよく使われますよね。

そうだね。その場合のカミングアウトというのは「自分の性的指向や恋愛的指向、性自認などを公表すること」を意味しているね。他人じゃなくて自分で公表すること…ここを勘違いしないでね。

なぜこんな言い方をするのですか?

もともとマイノリティゆえに差別や偏見を恐れて自分の性的指向や恋愛的指向、性自認を気軽に公表することができなかった時代が長く続いていたんだ。迫害されていたと言っていいくらいに酷い状況だった。バレてしまえば異常者と決めつけられ、会社をクビになったり、犯罪者として扱われたり、精神病院に隔離されたり、最悪は殺されたりもしたんだ。

何度聞いても恐ろしい話だね…。

そうやってやむを得ず自分の性的指向や恋愛的指向、性自認を隠して生きていく人が大勢いた。そういう状況にある人のことを「クローゼット」と呼ぶんだよ。

クローゼット? あの衣類をしまうアレのこと?

そう。クローゼットの中にいる状態…という、まあ、メタファーだね。そして自分の性的指向や恋愛的指向、性自認を隠さずに公表することを「coming out of the closet」と表現し、ここから「カミングアウト」という言葉が生まれたんだよ。

いつから使われるようになったの?

う~ん、諸説あるけど、1950年代にはカミングアウトという言葉はかなり使用されるようになり始め、今ではあらゆるコミュニティにとって欠かせないフレーズになったね。

日本でも「カミングアウト」ってカタカナで表現するんだね。

そうだよ。日本語にするなら「公表」とか、そういうのも使えるけど。ただし「告白」という表現は当時者には嫌われがちだね。なんか悪いことをしたみたいに思えるから。

だよね、何も悪くないし。

英語圏ではカミングアウトという言葉と一緒に「プラウドリー(proudly)」や「プライド(pride)」という表現も使うことが多い。これはつまり「私は誇らしいです」という表明であり、カミングアウトにネガティブな印象がくっつかないように吹き飛ばしているんだ。

それはいいね。私は私、堂々としてやる!ってことだね。

あとカミングアウトすることを「オープンにする」という言い回しで表現することもあるね。これは例えば同性愛を公表している人のことを「オープンリー・ゲイ」って言ったりするからなのだけど。

アセクシュアルやアロマンティックの人もカミングアウトという言葉を使っていいんだよね?

もちろん。自由に使っていいよ。
カミングアウトは別にしなくてもいい

でもカミングアウトって絶対にしないといけないことなのかな?

いや、カミングアウトは絶対にしないといけないと強制されているわけじゃない。

個人の自由ってこと?

そうだね。カミングアウトして生きようと決めるのでもいいし、カミングアウトせずに生きていこうと決めてもいい。カミングアウトするほうが正しいというわけではないよ。

なんか世間を見るとカミングアウトする人が続々と現れている感じだから、焦ってしまう人もいるんじゃないかな? 自分もカミングアウトするべきなのかな…って。

確かにそういう不安を感じる人もいるかもだけど、カミングアウトはプライベートなことだからね。強要されるものではないし、強要してもいけないよ。

じゃあなぜカミングアウトする人はどんどん現れるんだろう?

まずカミングアウトしやすい世の中になってきたというのもある。そしてカミングアウトすることでその性的指向・恋愛的指向・性自認が実在することを世間に示して差別や偏見を無くそうと活動する人も増えた。カミングアウトには「可視化」という効果もある。

可視化? かしか?

そう、可視化というのは簡単に言えば「それまで見えなかったものを見えるようにすること」だね。同性愛はフィクションの中だけだと思っていた人に「同性愛はリアルでも存在します!」と示す…とか、そうやって可視化していくことは平等のためには大切なんだよ。

アセクシュアルやアロマンティックはただでさえ可視化は進んでいなさそうだね。

残念ながらそのとおり。もともと見えづらいものだったからね。でもアセクシュアルやアロマンティックをカミングアウトする人も少しずつ現れているよ。

変化が起きているんだね。

別に全部が活動のためというわけでもない。ずっと隠しているのは辛いからカミングアウトしてしまった人もいるし、事情は個人で違うと思う。友人のひとりにはカミングアウトしたけど、親にはカミングアウトしていないとか、そうやって相手を選んでいることも珍しくないし。

カミングアウトって当事者には大変なことなんだよね。

そう。非当事者が思っている以上に当事者はカミングアウトについて真剣に悩むことも多い。それこそ人生を左右するくらいにね。だからカミングアウトされる側の人たちは優しく見守ってほしいよね。カミングアウトに悩む当事者を「そんなことで?」と茶化すのは論外でもある。もちろん一番に大事なのはマジョリティ側の差別や偏見を無くす努力を最大限取り組むことだけど。
アセクシュアル・アロマンティックにとってのカミングアウト

アセクシュアルやアロマンティックの人にとってのカミングアウトの難しさってあるのかな?

やっぱり認知度が低いので、カミングアウトしても全然理解されないことも多いよね。

それは困る…。

だからカミングアウトして「はい、めでたしめでたし」ってことにはならないことも多く、周囲に理解してもらうには長期戦を覚悟しないといけないこともある。当事者にはこれはかなりストレスだ。専門の本やウェブサイトをオススメしたりして、いろいろなアプローチをとるのもいいかもしれないね。

全部を自分で説明しないといけないと背負いすぎなくてもいいということだね。

うん。「カミングアウトが下手だったから理解してもらえなかったんだ…」と自分を責める必要はないよ。カミングアウトした勇気はとても偉い。自分を褒めていいんだよ。

逆にアセクシュアルやアロマンティックの人がカミングアウトせずに暮らしていくのはどう?

アセクシュアルやアロマンティックのような「Aスペクトラム(A-spec)」の人は、基本的にカミングアウトしなくても決定的に困ることはないかもしれない。ただ、本当の自分を周囲に理解されない孤独感、いわゆる「周縁化」という辛さにぶちあたることになる。

周縁化?

つまり「なかったことにされる」ということだね。それは誤解されることにもつながる。「あの人ってなんだか恋愛の話をしたがらないけど、私たちと話をするのがそんなに嫌なの?」とか、誤解が拡大して変なレッテルを貼られるかもしれない。

苦しいこともあるよね…。

一番いいのはカミングアウトしなくても平等に生きていけることなんだけどね。でも社会を変えるにはカミングアウトのパワーも必要になってくる。難しいよね。

カミングアウトするべきか悩んでいる人にアドバイスはある?

とにかく自分を第一に考えよう。自分の生活や健康を優先的に守ること。あと友人や家族にカミングアウトする前に、A-specコミュニティとオンラインでもいいので緩くてもいいから繋がっておくとメンタルを保ちやすいよ。仲間の存在は心強いからね。

無理はしないでね。

カミングアウトできただけでも「100点満点」だよ。相手の反応は相手の問題だから、あなたが気にすることではない。

カミングアウトしてもしなくても、自分の存在は変わらないもんね。
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編集部コメント
カミングアウトは当事者にとってとてもセンシティブなことであり、本人の意思で判断すべきことです。カミングアウトした人も、していない人も、平等に生きられる社会が求められます。