アセクシュアル（アセクシャル）の人は反出生主義ですか？

大雑把に言うとそうだね。他者に性的魅力を感じなかったり、他者と性的関係を持とうという強い願望はなかったりする。

「アセクシュアルと反出生主義は関係あるのか？」という質問だね。

先に答えを言ってしまうとそういうわけじゃない。アセクシュアルだからって反出生主義と決めつけることはできないし、それは個人の価値観で左右されるものだからね。

まずは「反出生主義」というものは何なのか？ そこから簡単に整理しようか。

反出生主義というのは英語で「antinatalism（アンチナタリズム）」とも言うのだけど、これは思想のひとつで、主に哲学の世界で用いられる言葉だよ。

うん。具体的には「人間には子どもを生む権利はない」「子どもを生むことは悪である」「この世に生を得て存在すること自体が間違っている」というような、生殖・生存・生命に対する極端な否定的見解を指すよ。

まあ、考え方は反出生主義の人の間でも多少のばらつきはあるのだけど、大体そんな感じだね。

うん。反出生主義の人の中には「人間は絶滅するべきだ」と主張している人もいる。

そうだね。フィクションにでてくる世界を滅ぼそうとする悪者なんかは、反出生主義っぽく描かれることが多いよね。

昔からあるよ。例えば、3世紀から4世紀くらいの時期に流行った思想として「グノーシス主義」というものがあった。これは禁欲的で反生殖的な考え方が根底にあり、反出生主義と一致する部分が多い。結局、グノーシス主義は5世紀頃にはほぼ勢いが消えたみたいだけど。

最近だと哲学者のデイヴィッド・ベネターは反出生主義の擁護者として有名だね。『生まれてこない方が良かった―存在してしまうことの害悪』という本も書いているよ。

最近になって反出生主義は一部でまた流行り出しているようだよ。ただ、哲学としての歴史的経緯とかは置いておき、かなりお手軽に使われているみたいだけど。

なんか「こんな世界つまらないし、嫌だな～」とか、「人生最悪だ、生まれてこなければよかった」とか、そういうふうに思った人が反出生主義を気軽に名乗ったりし始めているね。

これは私の推測だけど、「人間は滅べ」とか「生きたくない」というとさすがにヤバイ奴だと思われてしまうけど、反出生主義という言葉はオブラートに包めるので便利なんだと思う。

そういう面もあるね。もちろん正真正銘の哲学として反出生主義を実践している人もいると思うけど、最近の反出生主義の使われ方を見ていると冷笑主義（シニシズム）や虚無主義（ニヒリズム）のお手軽な延長にある雰囲気だね。

繰り返すけど、アセクシュアルと反出生主義は別物です。そもそもアセクシュアルは性的指向であり、反出生主義は思想・哲学なので全然根本から違うね。

反出生主義は生殖を否定するけど、アセクシュアルは別に生殖を否定しているわけではないよ。アセクシュアルの人の中には子どもを生んだり、育てたりする人もいるからね。

それにアセクシュアルは生殖などに関して善悪を論じているわけでもない。生殖は良いものか悪いものかという議論はそもそも関係ないよ。

まあ、反出生主義という言葉を使いたい・名乗りたいと思うかどうかは個人の自由なので好きにしていいものだよ。ただ、「子どもが欲しくないなぁ～」「私を生んだ親が許せない」「生きることに喜びを見い出せない…」などと思ったからってただちに反出生主義であるという直結にはならないと思うし、言葉に囚われすぎないのがいいんじゃないかな。

反出生主義という言葉はあくまで哲学の学問で用いられるもので、あなたの人生の助けになるために用意された言葉ではないから、それだけでは全然何ももたらされず、むしろ余計に自分の閉塞感や劣等感が増してしまうケースもあり得る。

少し視野を広げて、別の世界の言葉を覗いてみるのもいいんじゃないかな。無理にポジティブにならなくてもいい。ただ、ほんのちょっぴりだけ違う方向に目を向ける。それだけでも何かが違って見えるかもだよ。

もちろん自分が本当に追い詰められている状況になっているのだとしたら、周囲のサポートに頼りましょうね。専門的なケアが必要なときもあります。それは何も変なことじゃないよ。