- Qアセクシュアル(アセクシャル)には性欲がないのですか?
- A
性欲がないという人もいますし、性欲がある人もいます。
アセクシュアルは性欲がない人のこと?
アセクシュアルの説明では「誰にも性的に惹かれない」って言っていましたよね? それってつまり「性欲がない」ということですよね。
どうだろう。そうは言いきれないんじゃないかな。
え? なんで?
そもそも性欲があるかないか、どうやって判断する?
えっと…あれ、どうやってわかるんだろう…。
体温を知りたいなら体温計を使えばいいし、血圧を知りたいなら血圧計を使えばいい。骨の状態を調べるならレントゲン撮影があるし、脳や内臓を調べるならMRI検査がある。客観的に調べて、なんだったら数値で他人に説明できる。でも性欲は…。
考えてみれば性欲ってなんなんだろう。漠然としている…。よく「ムラムラする」とか「ドキドキする」っていうけど、その表現自体がいかに性欲が抽象的なのかを物語っていますね。
そうなんだ。性欲は計測できる具体性が何もない。
あ、でも勃起するとか、自慰行為をするとか、オーガズムを感じるとか、そういうので性欲はあると言えるのでは?
確かにそう思いたい気持ちもわかる。でもそれって生理現象の結果だから性欲と直接的な因果関係があるわけじゃない。しゃっくりとか、くしゃみとか、貧乏ゆすりとかと同じだよ。
そうなのかなぁ~。
別に性欲の存在を否定しているわけじゃない。性欲という言葉を使って自分の何かを表現するのは全然構わないよ。でもアセクシュアルを説明するのにはやや不適切とも言える。だから一般的に多くの専門家や当事者団体はアセクシュアルを「性欲がない」とは説明しないことにしているんだ。
性欲がないと決めつけてはダメってことだね。
他にもアセクシュアルを「禁欲」を支持する人だと誤解される場合もあるけど、当然そういう意味でもないよ。
性欲を説明に使わないもうひとつの理由
でも「誰にも性的に惹かれない」って状況も数値で示せないですよね?
まあそうだね。それでも性的に惹かれていなくて性的関係を明確に切望していないという本人の意志は示せるから、まだ性欲よりはわかりやすい。
なるほど。
それにもうひとつ性欲をアセクシュアルの説明に使わない理由があるんだ。こっちのほうが大事な理由かもしれない。
そんな理由があるんですか?
実は「性欲がない」という状態は医学的に用いられているんだ。ある病気の症状のひとつとか、そういう感じでね。
は~、確かにそういうことはあるかも。でもそれが何なんですか?
アセクシュアルは病気ではないし、治療するものではない。当事者団体もそのことを訴えてきたし、その偏見を取り除くために日々活動している。なのにアセクシュアルを「性欲がない」と説明するのが蔓延してしまったら…。
病気だと誤解される?
そうだ。少なくとも現状の医学の世界では「性欲がない」もしくは「性欲が減退している」状態を健康的とはみなしていない側面が大きい。だからそれと区別するためにもアセクシュアルは「性欲がない」と説明しないようにしているんだ。そうしないと何かの病気でなってしまう状態のことをアセクシュアルと呼ぶと思われてしまうからね。
それは深刻な問題ですよね。
もう一度強調しておくけど、アセクシュアルは「性欲がないという病気の症状や不健康な状態」ではないよ。絶対に誤解しないでね。
肝に銘じて言葉選びは慎重にします!
性欲減退とは性欲が減少することです。考えられる原因には、心理的要因(抑うつ、不安、人間関係の問題など)、薬、 テストステロンの血中濃度が低いことなどがあります。原因に応じて、医師は心理カウンセリングを提案したり、異なる薬を処方したり、 テストステロン補充療法を勧めたりします。
MSDマニュアル
性欲があってもアセクシュアル
納得していないわけじゃないし、性欲を説明に使ってはいけないのはよ~くわかったけど、アセクシュアルと性欲の関係がどうしても気になります。
それもよくわかるよ。
性欲があるけど性的に惹かれないからアセクシュアルだ…ということはありうるのかな?
一見すると「性欲がある」「性的に惹かれない」は両立しない矛盾したもの同士に思えるよね。でもそうとは言えないと思うよ。
性欲があるけど性的に惹かれないことがあるってこと?
うん。そういう人もいる。自分では性欲があると感じる、でも他者に惹かれていないし、性的関係を持ちたいとも思っていないとか。
それもアセクシュアルか、確かに。
結果として他者に惹かれていないか、性的関係を持ちたいとも思っていないなら、性欲があろうがなかろうが関係ない、アセクシュアルだね。
でも性欲があるのに性的関係を持たないというのは大丈夫なのかな?
健康的な心配をしてる? 大丈夫だよ。
ならいいけど。
「三大欲求」って言葉があるよね。
睡眠欲、食欲、性欲ですね。
うん。そのうち睡眠欲と食欲は健康に直結する。眠いのに寝なかったら体調が危ないし、食べたいのに食べられなかったら最終的に餓死する。でも性欲は満たされようが満たされまいが健康に深刻な危害は与えない。性欲が満たされないから他人に性暴力を振るうわけじゃない。性暴力は性欲ではなくて嗜虐欲求だったり、性差別だったりが関連したりするものだし。
言われてみればそうですね。そう考えると性欲って睡眠欲や食欲とは全然違うものかも。
性欲がなぜこれほどまでに過大評価されているのか。きっと昔の人は「性」というよくわからない目に見えない衝動をどう説明して受け止めればいいのか苦労したのではないかな。
昔なら余計に不安に思うかもしれないですね。
だから昔から人々は性に関する衝動を「性欲」とか「リビドー」と呼んで抽象的な概念として扱ってきた。それにその概念を悪魔的な存在とも結び付けてきた。「サキュバス」って知ってる?
知ってる! なんか男性を誘惑する悪魔だっけ?
そう。キリスト教の教義ではサキュバスは悪魔で、性欲と強く結びつけられた存在だ。自分の意思や理解で説明しきれない「性」というものへの恐怖心、タブー意識が強く反映されているよね。
昔の人は性欲をそんなふうに認識することもあったのか~。
そうやってとりあえずの説明のための概念として文化や宗教でカタチ作られた「性欲」という言葉がいつの間にか医学でも用いられ、さも実体のある真実かのように私たちの世界の大多数の規範の中に存在しているけど、実はそんなに絶対的真理でもない。単にそういうことだよ。
人間は本能的に性欲には逆らえないと言い放つ人もいるけど…。
それは違う。性欲は私たち人間社会が作った概念だ。いくらでも向き合えるよ。性欲があってもなくても恥ではない。
これからの時代は性欲という言葉ばかりに振り回されずに考えていきたいですね。
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編集部コメント
性欲があってもアセクシュアルだと自認しても問題ありません。「性欲がある人はアセクシュアルとは名乗ってはいけない」という考えは排他的で差別的です。