- Qアセクシュアル(アセクシャル)やアロマンティックは先天性なのですか? それとも後天性ですか?
- A
わかりません。しかし、こうした疑問はとくに当事者が生きていくうえで重要ではないことが多く、この問いに深刻に悩む必要はないでしょう。
性的指向や恋愛的指向は先天的?後天的?
性的指向であるアセクシュアル、恋愛的指向であるアロマンティック…これって先天性なの? 後天性なの?…って他者に聞かれたという人もいるみたいです。
う~ん、やっぱりね…。
実際のところ、先天的・後天的、どっちなんですか?
正直に言ってしまうと、わからない。
あれ、今まで質問疑問にはバシっと答えていたのに…。
いや、答えを濁しているわけじゃなくて、本当にわからないんだよね。研究の最前線ではいろいろな論文もあったりするし、これまでもそれを解明するための試みはいくつもあったから。性的指向を決める遺伝子を特定しようという研究もあるし…。
でも…わからない?
現状はわからないと言うしかない。すごく解明が難しいテーマだと思うし、多方面の学問による多角的な分析や考察も必要だし、簡単に答えはでないと思うよ。これはアセクシュアルやアロマンティックに限らず、同性愛などの他の性的指向や、性自認などにも言えるけど。
そっか…時期尚早な質問だったね…。
もちろんそれを解明してみたい!という学術的な熱意がある人なら、いくらでも研究を自由にしていいんだけどね。ただ…。
ただ?
「先天的?後天的?」という質問は多くの一般の当事者には不要で無用なものだとも思うよ。
そんな質問をされても…
おっと、不要で無用ときましたか…。
うん。基本的にはどんな質問にも答えるのがこの場のモットーだけど、当事者の人にはとくに理解してほしいのだけど、当事者はどんな質問にも答えなくてはいけない義務があるわけじゃないんだ。専門家じゃないんだし。中には相手にしなくてもいい質問だってあるよ。
この「先天的?後天的?」という質問は…。
相手にしなくていいタイプの質問の筆頭ではないかな。なぜならこの質問の場合、大前提として質問者の中には差別的もしくは偏見的な認識があることが多いからだよ。
それはなぜ?
考えてもみてほしい。そもそも「先天性」というのは「生まれつき」という意味で、「後天性」は「生まれた後」という意味だよね。そしてこれらの用語は基本的には病気の原因を説明する際に使用される言葉だよ。
そうでしたね。
これだとアセクシュアルやアロマンティックを病気や障がいとみなしているようなものだよね。当然、アセクシュアルやアロマンティックは病気でも障がいでもない。
確かに。
そしてもし「先天的」と曖昧に答えた場合、「じゃあ生まれながらに異常だね」と言われてしまうし、「後天的」と答えようものなら「じゃあ治せるね」と言われてしまう。これでは誘導尋問みたいだよ。
まあね…。そういう会話になるのは想像つくね…。
こういう質問をするってことはやっぱり何かしらの偏見があると思われてもしかたがないと思うよ。だって「私はトマトが嫌いです」と答えたとき、「それって先天的?後天的?」とは聞かれないでしょ?
うん。そんなこと聞く人はよっぽど変わり者だよ。
食べ物の好き嫌いは基本的には病気とは全然関係ないと多くの人がわかっているからだよね。食べ物に例えなくてもいい。「私はあの人に恋愛的に惹かれるんだ」と言ったとして「それって先天的?後天的?」とは聞かない。つまりそういうこと。
アセクシュアルやアロマンティックの当事者だけにそんな質問するなよ…ってこと?
そうですよ。当事者の人も変に気にしすぎなくていいんだよ。中には「自分がアセクシュアルなのは先天的なのかな後天的なのかな…」「私はいつからノンセクシュアルだったのだろうか…」と悶々と悩みだして不安が増大してしまう当事者もいるかもだけど、その疑問はあなたを助けることはない。学者にお任せしてしまいましょう。
考えないのも大事だね。
世の中には「自分にパワーを与える答えに繋がる疑問」もあれば、「自分を悩ませるだけの意地悪な疑問」もある。区別するのは難しいことだけどね。でもこれだけは言える。アセクシュアルやアロマンティックが仮に先天的だったとしても後天的だったとしても、その存在の立場が揺らぐことはないよ。
質問に答える義務はない
前にも言ったけど、アセクシュアルやアロマンティックの当事者だからってどんな質問にも答えなくてはいけない義務があるわけじゃない。にもかかわらず、カミングアウトすると怒涛の質疑応答タイムが強制開始されてしまうことが多いんだよね。
純粋に知りたいだけなのかもしれないけど…。
多くの当事者はそういう質問ラッシュはうんざりしている。好きで答える人もいるかもだけど。でも当事者は専門家ではないし、正確に答えられない人がほとんどだ。逆に間違った知識を持っている当事者もいる。それに今まさに悩んでいる人だっているんだから。そういう不安定さにつけ込んで質問を畳みかけるのはかなり酷いことだとも思う。
ストレスだよね。もう人前で話題にしないようにしようと思うかも。
そう。だから当事者の人は質問攻めにされても答えなくていい。そんな役割は背負わなくていいんだよ。
でも相手はそれで納得してくれる?
そういうときは専門書とか専門ウェブサイトを薦めて「これで学んでください」と丸投げしても全然OKだよ。「先天的?後天的?」なんて失礼な質問をぶつけられたら、黙ってこのページのリンクを貼って送るのでもいいくらいだ。
察しろ…ってことですね。いや、反省しろ…かな。
マスメディアの人にも気を付けてほしいんだよね。よくアセクシュアルやアロマンティックの当事者にインタビュー…という企画もあるけど、当事者は何でも質問に答えてくれる便利屋ではないんだから。常識的にまずは専門家の人に取材するのが筋だと思う。
そうだね。インタビューって「理解」の名目で何でも許されがちだけどね。
もちろん当事者を可視化する意味でも一定の意義はあるんだけど、質問攻めはやめてほしい。むしろ当事者に自由に語らせてほしいよね。私はこの仕事をしているとか、こんな夢があるとか、趣味はあれだとか、そういう「自分のストーリー」をね。
「先天的?後天的?」って質問をした後にこのページのリンクだけが送られてきた人で今このページを読んでいる人、わかった?
謝りにいってきてくださいね。
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編集部コメント
「性的指向や恋愛的指向が先天性なのか後天性なのか」を当事者が考える必要性はとくにありません。それを把握しなくてはいけない義務もありません。この質問はかなり失礼で偏見に満ちたものに該当する場合も多いので、当事者に対して口にするのは控えましょう。学術的議論がしたいのなら学問の場でやってください。