- Qアウティングとは何ですか? アウティングされたときはどう対応すればいいですか?
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アウティングとは、本人の同意なく、その人の性的指向・恋愛的指向・性自認を公表することです。アウティングは当事者の安全を脅かす深刻な問題であり、場合によっては専門的な対応が求められます。
アウティングは当時者にとっては重大な問題
「カミングアウト」は「自分の性的指向・恋愛的指向・性自認を自ら公表すること」を意味するけど、それとセットで覚えておきたい言葉が「アウティング」だね。
アウティング?
英語では「outing」と書く。これは要するにカミングアウトと対をなしているのだけど、「その人の性的指向・恋愛的指向・性自認を本人の同意なく他者が勝手に公表すること」を意味しているよ。
勝手に他人が公表しちゃうの?
例えば、AさんはBさんから「自分はアセクシュアルだ」と打ち明けられたとする。そしてAさんはとくにBさんに許可をとることもなく、Cさんに「Bはアセクシュアルなんだって」と喋ってしまう。これがアウティングだね。
そんな目には遭いたくないね…。
組織的に起きることもある。例えば、ある企業でひとりの社員がトランスジェンダーだったとする。その情報は人事部しか知らない。なのに社内文書で「トランスジェンダーである」ことが大勢の社員に知られてしまった。これもアウティングだ。
公表してしまったその他人に悪意があったかどうかは関係ないんだね。
うん。悪意があったらそれはそれで問題だけど、悪意がなくても問題は変わらない。実際に表面上は全く問題性がなさそうなことでもアウティングを引き起こすリスクに繋がったりするし…。
というと?
例えば、授業の一環で性的指向を訊ねるとか。言いたくない当事者にしてみれば嫌なシチュエーションだよね。また、当事者同士の交流イベントで細かい性的指向を基にグループ分けされたりしても、オープンな人はいいけど、公表していない当事者は複雑な気持ちになるよね。強制的なカミングアウトや、カミングアウトしている人が優遇される状況は、本人の本心ではない公表に追い込んで結果的にアウティングと同様の被害性を引き起こすこともある。
アウティングされたら当事者は嫌な気持ちになるね。
それだけでは済まないこともある。職場や学校にいられなくなったり、暴力や誹謗中傷の対象になってしまったり、場合によっては自殺に追い込まれる人も出てくる。日本でも自殺者を出した事件もあったし、世界中で起きている。とても深刻なんだ。
口が滑った…では許されないね。
アウティングした人は「そんなに大騒ぎすることでもないでしょ?」と思っているかもだけど、アウティングされた当事者には人生に大打撃を与える影響がある。実際に多くのマイノリティな当事者はアウティングに怯えているよ。
みんながみんなオープンにカミングアウトしているわけじゃないもんね。
誰にいつどうやって公表するか…これは当事者にとってセンシティブな事柄だからね。
アウティングの歴史
アウティングっていつから問題になっているの?
昔からだね。昔は同性愛や異性装だというだけで異端として扱われた。だから相手の弱みを突きつける目的で、戦略としてアウティングが用いられたこともある。有名なのは1907年にドイツで起きた「ハルデン=オイレンブルク事件」だ。
1907年のドイツ? どんな事件なの?
当時のドイツ皇帝ヴィルヘルム2世の閣僚や側近がジャーナリストによって同性愛者として糾弾されてスキャンダルになったんだよ。このときは「同性愛である」ということは犯罪歴があるのと同じ汚点扱いだったんだよ。
酷い話だ…。
他にも1950年代にアメリカで巻き起こった「ラベンダーの恐怖(Lavender scare)」も歴史的な重大事件だね。
ラベンダーの…恐怖? また変な名前だね。
これは当時のアメリカでは共産主義に対する敵対心が激化していて、「同性愛者は共産主義者である」という根も葉もない噂が拡大し、社会に潜む同性愛者を捕まえようという大規模な動きが起こったんだよ。いわゆる「魔女狩り」であり「モラルパニック」だね。
そんなことも起きていたのか…。
そうなんだ。今の日本にも「LGBTの人は左翼だ。地域を滅ぼそうとしている!」とか、テキトーなことを言い放つ人がいるし、トランスジェンダーの人が性自認どおりのトイレを使う件について「トランスジェンダー=性犯罪者」のように煽る主張をする人もいるけどね。
そういう誤解や恐怖でアウティングのリスクが増すこともあるんだね。
アウティングしないために。そしてアウティングされたら…
ということでアウティングしないためにも個々人で意識を持つことが大事だし、組織であれば対応指針を決めておくべきだね。
それは具体的には?
当事者の同意を絶対に重視し、許可なく情報を漏らさないように徹底する。基本は個人情報と同じ扱いだと思うけど、より厳密で慎重な扱いが求められるね。組織内で教育を行うことも必要だと思う。
もしアウティングされてしまったらどうすればいいの?
アセクシュアルやアロマンティックならば知名度が低いせいもあって、全く意図せずにアウティングされる事態も起きやすいよね。「あの人、性的に人に惹かれないんだってさ~」「恋愛関係を持ちたくないらしいよ」みたいに気楽な会話の流れで。
そうだよね。それが性的指向や恋愛的指向だと理解してくれてすらいないこともあるよね。
こういうアウティングを受けた場合、起こってしまったらどうしようもないので、まずは当事者である自分を責めないようにしよう。あなたは何も悪くない。悪いのはアウティングした人だ。
うんうん。
企業や学校などの組織内でアウティングの被害を受けた場合は、専門の相談窓口などがあればいいのだけど、残念ながら無いことが多い。ただ、ハラスメントのひとつとして考えて相談先を考えるのも手かもしれない。
自分で辛さを抱え込みすぎないようにね。
なんにせよ、アウティングを受けた当事者だけでは対応しきれないことがほとんどだ。つまり、周囲の助けがいるということでもある。もしあなたの目の前で、もしくはすぐ近くで、アウティングに該当する行為を見かけたら、「それ、ダメですよ」と注意をしてほしい。当事者にとってそうやって注意をする人がいるということはとてつもなく心強いんだよ。
アウティングは許されない行為であるという認識を広めていきたいね。
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編集部コメント
アウティングは悪意のあるなしに関わらず、許されることはありません。個人の意識を高めると同時に、社会や行政でアウティングを禁止する明文化された施策も求められます。