アセクシュアル（アセクシャル）は「性欲低下症 / 性的欲望低下障害（HSDD）」と同じですか？ 違いは？

はい。アセクシュアルやアロマンティックは病気ではないときっぱり説明したよ。

ああ、それですね。じゃあ、それについて説明を追加していきましょう。

まず病名の基礎知識からなどだけど、医学では診断名はちゃんとルールで決まっているんだよね。

うん。例えば世界保健機関（WHO）によって定められている『疾病及び関連保健問題の国際統計分類』（ICD）というのがあって、各国で参考にされているよ。これは何年かごとに改定されるので、診断名も変更されることがある。

「性欲低下症」というのは、昔は「性的欲望低下障害」とも呼ばれていて、2024年2月時点の最新版（ICD-11）では「性欲低下症」に診断名が変わったんだよね。

性欲低下症（性的欲望低下障害）は英語では「Hypoactive Sexual Desire Dysfunction」といって頭文字をとって「HSDD」と言われることもある。この性欲低下症は「ICD-11」では「性機能不全群」の中に分類されているよ。

性欲低下症は「性行為に対する欲望または意欲の欠如または顕著な低下」と解説されていますね。

そうですね。違うものです。

性欲低下症は、たとえ性的欲望が完全に欠如していたとしても、本人がそれに満足していれば診断されないよ。診断が適用されるには、対象となる状態が少なくとも数ヵ月間持続し、臨床的に有意な苦痛を伴っていなければならないことになっている。

要するにその状態によって本人が苦しんでいる場合だよね。苦しいと言っても「性行為に対する欲望または意欲の欠如または顕著な低下」のせいでパートナーや周囲に理解されなくて苦しいとか、そういう苦しさは別だからね。

まあ、だいたいそんな感じかな。実際は個人でいろいろ違ってくるけど。

アセクシュアルは性的指向であり、アイデンティティなんだよね。自分でこうかなとしっくりくるアイデンティティを見つけた結果がアセクシュアルだから。なのでアセクシュアル自体に苦痛や不満は基本的にないよね。むしろ他者に性的に惹かれないことが自分を特徴づけていると考えているわけだから。

それはあるね。でもそれはアセクシュアル自体に問題があるのではなく、差別を温存する社会に問題があるでしょ？

結構全然違うものだってことがわかったかな？

まあ、そうは言っても、実際の個人の感覚として「自分はアセクシュアルなの？ それともこの性欲低下症ってやつなの？」と判断がつかなくてわからないことはあると思う。

そういうときは「アセクシュアルか、性欲低下症か」みたいな二者択一の問いかけで思い詰めすぎないほうがいいよ。

さっきちょっと説明をしていなかったけど、ICD-11という医学的な診断分類では、性欲低下症は「性の健康に関連する状態群」と定義されていて、精神疾患という扱いではないんだ。

最新の医学分類では精神疾患として扱わないことになったのは、性の多様性を反映したことと、当事者が医療サービスにアクセスしやすくするためなんだよ。

そう。だから現在では「アセクシュアルか、性欲低下症か」は「性的指向か、精神疾患か」という二者択一とは違う。そんなに深く悩まなくていいんだよ。

アセクシュアル当事者のための支援団体とかに足を伸ばすのもいい。また、他に心理的な苦痛で体調に問題がでているなら、精神科や心療内科とかに行くのもいいと思う。どっちにも行ってもOKだよ。

どちらかを選べってことではないからね。自分の人生のためになる、自分なりの道のりをゆっくり見つけていこう。